学位論文紹介

トポロジカル絶縁体Bi2Se3単結晶薄膜の作製とキャリヤー制御

吉見 龍太郎

トポロジカル絶縁体とは、近年になって発見された新しい物質相である。トポロジカル絶縁体は バルクにはバンドギャップが存在し絶縁体でありつつも、系の端にバンドギャップの存在しないエッジ状態を有する系である。 この表面状態は、波数kに対応してスピンの方向が決まっているスピン偏極していることや、本研究で扱うBi2Se3においてはバンドが直線的に交差してディラックコーンを形成することなどから、現在注目を集めている。 このような非自明なバンド構造の存在は角度分解光電子分光をはじめとする超高真空下の実験で確認されているが、輸送現象によっては確認されていない。その原因として、フェルミレベルがバルクバンドギャップ内に存在せず、輸送現象にバルクバンドの寄与も含まれてしまうためである。
そこで本研究ではBi2Se3において、単結晶薄膜を作製することで輸送におけるバルクの寄与を軽減させ、さらにドーピングや電界効果によって 試料のキャリヤーを制御することで、トポロジカル絶縁体の非自明な表面状態を輸送現象によって確認することを試みた。

Sheet Resistance Magneto Resistance

図1 面抵抗と磁気抵抗の温度依存性

PLD(パルスレーザー堆積)法によって試料薄膜を作製した。膜厚の異なる薄膜を作製し、抵抗の温度依存性と磁気抵抗を測定した。その様子を図1に示す。面抵抗は膜厚が薄くなるに従って増大しているが、300Kの値でスケールさせても互いに重ならないことから伝導は膜厚に比例していない、つまりバルク以外の寄与が存在する可能性が考えられる。また、その膜厚依存性は磁気抵抗に顕著に現れていて、図2に示す通り、膜厚が厚い試料においてはローレンツ力に起因する磁場の二乗に比例する磁気抵抗が観測されているが、膜厚が薄くなるに従って低磁場付近で急激に立ち上がるカスプ型の正の磁気抵抗を観測した。これは弱反局在によるもので、スピン軌道相互作用の強い二次元伝導に由来するものであることがわかり、図3に示すように、磁気伝導度の振る舞いはローレンツ力による項と弱反局在による項の重ねあわせでフィッティングすることで実験結果を綺麗に説明できることがわかった。

Thickness dependence

図2 磁気抵抗の膜厚依存性
Magneto Conductivity at 30nm

図3 30nm薄膜における磁気伝導度

電解液ゲートを用いた電界効果デバイスを作製し、ゲート電圧よって試料表面のキャリア制御を行った。図3に抵抗とキャリア密度のゲート電圧依存性を示した。図にあるように、ゲート電圧印加によってキャリア密度をシートあたり、1014 cm-2程度制御することに成功した。しかしキャリアは電子であり、よりバルクの寄与を減らした伝導特性を観測するには、電界効果だけでなくドーピングによるキャリア制御も成功させる必要があり、今後の課題である。

Summary EDL
図4 6nm薄膜における面抵抗とキャリア密度のゲート電圧依存性