学位論文紹介

B20型化合物のバンド構造制御と熱電効果

金澤 直也

熱電効果(ゼーベック効果、ペルチェ効果)を利用した発電素子、冷却素子の開発は1950年代から活発に研究されてきた。 特に近年、全世界の電力(10TW)に対して廃熱が15TWあると言われており環境問題の深刻化の観点から見ても、そのような高効率熱電材料の開発は非常に重要である。 物質が高効率熱電材料となりうるには、大きなゼーベック係数、小さな抵抗率、小さな熱伝導度を同時に併せ持たねばならないことが知られている。しかし、これらのパラメータは物質の電子状態によって定まるため独立に決定するのは困難であることや毒性の問題などもあり、現在もなお熱電物質開発は盛んに行われている。 本研究では、有名な熱電物質の1つとして知られていて毒性の低いCoSiの持つ大きな性能指数の起源が非対称的なバンド構造であると仮定し、モデルを立て、実験と電子状態計算により仮定の検証を行った。さらに、検証により得られた結果から高効率化への指針を打ち立て、その指針に従ってCoSi にGeドーピングすることによる効率の最大化を試みた。

一般に金属では抵抗率は小さいがゼーベック係数も小さくなり、絶縁体ではゼーベック係数が大きいが抵抗率も大きくなってしまうことが知られている。 しかし、ゼーベック係数が大きく金属的伝導を示す(抵抗率が小さい)NaxCoO2が発見された。 従来みられなかった現象を説明するために、バンド構造がプリン型でありフェルミ面がプリン型バンドの頂上付近に存在している場合は、小さな抵抗率と大きなゼーベック係数を併せ持つことが可能であるという理論が提唱された(K.Kuroki and R.Arita: J. Phys. Soc. Jpn. 76 (2007) 083707)。 CoSiが小さな抵抗率と大きな負のゼーベック係数を併せ持つことも特異なバンド構造が原因ではないかと考えた。CoSiに電子・ホールをドープ(Ni・Al)することによって(フィリング制御)フェルミ準位を上下させたときの実験結果と計算結果は図1のようになった。この結果をゼーベック係数の表式とバンド構造から解釈するとゼーベック係数のフェルミ準位依存性はΓ点周りのバンド構造が寄与していると考えられる(図2)。

CoSi

図1 CoSiのゼーベック係数のフェルミ準位依存性
model1

図2 CoSiのバンド構造と実験・計算結果を説明するためのモデル

Γ点周りのバンド構造が寄与しているという考えに基づき、本研究ではさらにGeドープによってゼーベック係数の増大を図った。フェルミ準位まわりのバンド構造はCoの3d軌道由来であることが部分状態密度を計算することによりわかったため、GeドープをすることによってCo-Co間距離が増加し、トランスファーが小さくなるためにバンド幅が狭くなることが予想される(実際に狭くなる)。このことからΓ点周りのバンド構造について考えると図3のようになりゼーベック係数の増大が期待できる。 実験と計算の結果は図4のようになりゼーベック係数の増大はできなかった。

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図3 CoSiのバンド幅とゼーベック係数の関係を表すモデル
doping

図4 CoSiにRh、Geドープしたときのゼーベック係数の実験・計算結果